いまきいれ尚夫 選
時雨はやがて雪に変幻の白い断面 後谷五十鈴
傷跡だけ印した時刻表 一の橋世京
人という殻の中に囚われて抜け出せない 久光 良一
ツツドリ鳴くさざ波だつ兵の耳 三好 利幸
ほしいもの何 戦いを見ない日です。 加藤 武
梅東風よ「戦争消えろ」 伊藤 清雄
父思う母思う 帰らない日を思う 井上 敬雄
独り言もよく噛んで朝御飯 前田 和子
束の間の戒厳令 さざんかは散ります 平山 礼子
明日からと明日からと言って今日も終る 島田 茶々
寒い朝踏まれる霜柱ほどのプライド ゆきいちご
戻せない夕陽を白いハンカチに織り込む 高木 架京
鬼ごっこの鬼が消えふりむくとひとり 平岡久美子
津軽海峡渡るつもりの蝶一頭 きむらけんじ
じゃあねと手を振って深い川を渡る 小山 貴子
私は人々にかういふ。
君等が心の土に真実の種をおろせ。
君等が生活の上に生命の木を生ひ立たせよ。
大地の力を生きることの力とせよ。
太陽の光を生きることの光とせよ。
然らば、君等が生命の木はやがて多くの花をつけ多くの実を結ぶであらう。
(井泉水著『生命の木』「芸術より芸術以上へ」)