平山 礼子
白髪ばかり散らばる床屋 辻本喜代志
鋏を入れられる度に床に散らばってゆく白髪を、いと
もアッサリ詠んでいるが、万感を込めてある感じがする。
ポトンと投函・音も送る 前田和子
郵便ポストの底に封書が着地した独特な音がしてくる。
「音も送る」には、相手への想いも込めてあるのでは。
作者は以前「層雲自由律」に属しておられたとのこと。
「月へ所在を灯す」の句にも惹かれた。
さっさと服を着たまえ 昼月 楽遊原
「うそをついたやうな昼の月がある」という放哉の句が
あるが、昼月には、夜の月には無い、惚けた感じと、嘘
ぽさと、節度が無い感じがあって、それを楽遊原さんら
しさで滑稽に詠んでいる。
マイルスをかけるとジャズ喫茶になる 青井こおり
マイルスのTPが聴こえてきそうだ。何の変哲も無い
部屋が瞬時にジャズ喫茶になるのは、マイルスだからか。
髪を切る 美容室の窓が暮れようとする 早舩煙雨
放哉の「海がまっ青な昼の床屋にはいる」を思い起こ
させる。煙雨さんの意外な一面が覗けた気がした。
ねがいごとの風鈴夕空に吊るす 薄井啓司
何気ない日常を詠む啓司さんが伝わってくる。「夕空
に吊るす」の措辞が佳い。御身体をお厭いください。
私は人々にかういふ。
君等が心の土に真実の種をおろせ。
君等が生活の上に生命の木を生ひ立たせよ。
大地の力を生きることの力とせよ。
太陽の光を生きることの光とせよ。
然らば、君等が生命の木はやがて多くの花をつけ多くの実を結ぶであらう。
(井泉水著『生命の木』「芸術より芸術以上へ」)